ソウルフードここにあり。
観光地グルメと言えば何を思い浮かべるだろう。行列のできる郷土料理店か、はたまた人気沸騰中のB級グルメか。観光地を歩けば様々な店の看板が私たちを手招いてくれる。しかし地域が持つ「おいしさ」はそれだけではない。今回は少し視点を変えて、地域に根差したご飯所に足を向けてみよう。
ある夏の日、私たちが訪れたのは旧角館総合病院の隣に店を構える「たかはし食堂」だ。武家屋敷通りから少し外れており、観光客が見つけるとなると少し難しいかもしれない。しかし地元の人におすすめを訊くとみな口をそろえて「たかはし食堂のカツ丼」と言うのだから凄い。言わば角館のソウルフードか。
実食!
やがて運ばれてきた輝かしいばかりのカツ丼。一口食べて目を見張った。つやつやのご飯に乗ったこだわりのカツは超肉厚で柔らかく、噛んだ途端に解けてしまう。慌ててもう一口運べば歩き回って疲れた体に幸福感が満ちる。薄くついた衣には上品な醤油出汁が沁みていて、とじ卵と一緒に頬張るとあまりの美味しさに頬が緩んだ。暑い夏の日だというのにあれよあれよと完食だ。
見かけは王道のカツ丼。それなのになぜこんなにも一層美味しく、そして私達を満たしてくれるのだろうか。そっと厨房に立つ二人に訊いてみると、納得の答えが返ってきた。
というのも、味噌汁に入れる椎茸からラーメンに使う麺、そしてカツ丼の主役である肉に至るまで、使う食材はすべて昔のまま地域で生産しているものにこだわっているとのことなのだ。そこには先代の味を守りたい、リピーターの町の人に変わらない美味しさを届けたいという思いが滲んで見える。また、年月をかけて築いた人とのつながりや助け合いの気持ちを大事にしたいのだと典子さんは語った。この美味しさはこれまでの歴史や町の人たちを大事に思って作っているからこそか。
お客様と垣根がない
まだ暖簾をかけていないうちから入ってくるお客さんもいて、嬉しいやら困ったやら、と話す数實さん。その顔には満面の笑みが浮かんでいて、お客さんとの間に垣根がないことが伝わってきた。
「一見さんが来ることはあまりないんだよ」と典子さん。観光スポットから少し離れた食堂だが、これを機にその扉を開いてみてはいかがだろうか。きっと穏やかな笑顔と心に沁みる美味しさで私たちを出迎えてくれることだろう。